第83章 声涙
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「調査兵団団長のエルヴィン・スミスと、本来の俺は随分かけ離れた人格をしているらしい。」
「??」
「君がそれを教えてくれた。」
「…………。」
「嬉しいと同時に、なかなか困ってる。」
私の髪を梳きながら、少しずつエルヴィンは話してくれた。
「――――今回の壁外調査でのように―――――、もし君が危険な目に遭っているところを目撃したら――――、俺はその時に、エルヴィン団長でいられる自信がない。君を守るために、団長の責務を捨てて走り出してしまいそうで、それが怖い。」
「――――………。」
「思ったより軟弱な団長で、軽蔑するか?」
自嘲の笑みを零すエルヴィンに、首を横に振って頭を撫でる。サイドボードの引き出しから紙とペンを取り出し、私の想いをさらさらとしたためる。
“軽蔑なんてしない”
“でも”
“私を失っても、また愛する人は見つけられる”
“私は調査兵団や人類の未来と天秤にかけるような大層な人間じゃないよ。”
文字をしたためてふっと笑って見せる。
エルヴィンの顔を覗き込むと、どこか悲しげで、笑えないという表情で私を見つめ返した。
「――――君はわかってない。俺にとって君の代わりはいない。断言できる。」
「――――………。」
「本来の俺は物凄く独占欲が強く、自分の欲求に忠実だ。団長の仮面の下から、諦めきれない君への執着心が出て来てしまったら―――――的確な判断ができなくなる日が、いずれ、来るんだろうと思う。」
「…………。」
「でも、君はそれを嫌がるのか?」
「…………。」
「君がリヴァイに兵士長で居続けることを望んだように、俺にも―――――、例え君が死のうとも、団長の仮面を被り続けることを望むのか?」
胸が詰まるほどの苦しそうな問に、私は目を真っすぐに見つめて静かに頷いた。