第83章 声涙
「そういえばナナ、実家に帰る前に約束を果たそうと思うんだが。」
「……!」
エルヴィン団長からエルヴィンへと切り替えたその時に、ループタイを外しながら彼は言った。
「2人共生きて帰ったら―――――俺の泣き言を聞いてくれるんだろう?」
私はそんな些細な約束を覚えてくれていたことが嬉しくて、微笑んだ。
「風呂に入ってくる。その後はゆっくり酒でも飲みながら話そう。何がいいかな。戸棚にある酒もつまみも、好きなものを選んでいるといい。」
エルヴィンがお風呂に行っている間に、エルヴィンの私室の戸棚から、好きに食べていいと言われていたおつまみやお菓子をウキウキと物色する。
ワインならこれかな、ウイスキーなら何がいいんだろう…と考えながら色々と手に取ってみる。
いくつかを抱えてテーブルに置いた。
ふと、椅子に無造作にかけられたエルヴィンが脱いだシャツを見つけた。
畳んでおこうかと思い手に取って広げると、大きくて驚く。
ふわりといつもの彼の匂いがして、それに包まれたくてシャツを羽織ってみる。なんだろう、とても安心する。
ソファにころんと横になって、目を閉じてその心地良さに甘んじていると、うとうとと微睡んでしまった。