第83章 声涙
「ナナの声が出たと聞いたが?」
「ああ。少しだがな。―――――おいもうこのやりとりは何度目だ。示し合わせて一度で来てくれよ。まったく執務が滞る。あとうちの幹部はナナのことを溺愛し過ぎだな。今後が心配になる。」
「あ?」
通常運転で不機嫌な面持ちのリヴァイ兵士長に、エルヴィン団長が嫌味を含めてふぅ、とため息を零す。
まぁまぁ落ち着いて、とコーヒーを差し出すと、椅子に身体を預けてコーヒーを口に運んだ。
「――――それで。ナナ、話せるのか?」
「…………。」
ごめんなさい、と肩をすくめて頭を下げる。
「なんだ、ガセネタじゃねぇか。」
「いや、確かに一言声に出たんだがな。――――なんて、言ったと思う?」
「知らねぇよ。何だ。」
「――――俺の名を呼んだ。」
顎に手を当てて、どうだ、とでも言いたげな様子だ。
エルヴィン団長の少年みたいな素が出てる。
いちいち事を荒立てる言い方をしなくていいのに………ハンジさんやミケさんにとる態度と明らかに違うその態度は、少し困ったなとも思いつつも―――――2人の間柄が、以前よりもより近くなっているんだろうと思えば微笑ましい。
「あ?喧嘩売ってんのかてめぇは。」
「いや?事実を述べたまでだが。」
「――――ちっ……クソが。イライラする面しやがって、削ぐぞ。」
不機嫌なリヴァイ兵士長の前に、恐る恐る紅茶を置く。
「――――そう言えば明日お前は会食に行く予定だったじゃねぇか。安心してナナを俺に預けて行って来いよ。――――その間に俺の名前しか呼べねぇように仕込んでおいてやる。」
「勝手に予定を作るな。明日は何も予定はない。」
「――――ちっ………。」
ふざけ合いとでもいうのか、悪態の付き合いとでもいうのか、2人のこの独特なやりとりを私はどういう顔で聞けばよいのかわからず、ただただ赤い顔を見られたくなくて俯いていた。
でも、2人と一緒にいられるこの空間は……なんだろうとても、落ち着く。