第83章 声涙
「ナナの声が出たと聞いた。」
「ああ。少しだがな。」
ハンジさんの後に団長室にやってきたのはミケさんだ。
リヴァイ兵士長やハンジさんに比べると団長室に顔を出される頻度は少ないから、驚いた。
「ナナ、良かったじゃないか。」
ミケさんに笑顔で応える。
「――――まあ、一言だけで……またそれ以降は声の出し方がわからなくなってしまったそうだが。」
「その一言はなんと言ったんだ?」
「――――私の名前だ。」
「…………。」
ミケさんがなぜか私をじっと見つめる。
「??」
「ミ・ケだ。ほらナナ言ってみろ。」
「――――。」
言われた通り口に出そうとしてみるけれど、口がパクパクするだけで、音としては出て来ない。
「エルヴィンよりよっぽど簡単なはずだぞ?ほら、ミ・ケ、だ。」
「――――。」
「おいミケ、ナナに無理を強いるな。」
「――――お前だけ呼ばれるなんてずるいじゃないか。」
「…………。」
「…………。」
まさかミケさんらしくない言葉が出て来て、私とエルヴィン団長は目を合わせた。
私はどうしてもおかしくて、とても笑ってしまった。
「―――ナナはそうやって笑ってるのが一番だ。笑ってたら、いつか声も戻ってくるだろう。」
ミケさんが優しく頭を撫でてくれるので、私はありがとうございます、と意志を込めてにっこりと笑った。
「一年半だったか?しばらく会えないのは寂しいが――――、元気で過ごせよ。ナナの帰りを待ってるからな。」
――――そう。声は完全に戻らないままになってしまったけれど、私は来週には実家に戻る。1年半の長期離団だ。
とても寂しいけれど―――――その間になんとか声を取り戻して、戻って来た時には大きな声でみなさんの名前を呼びたい。