第83章 声涙
「ええっ、ナナ声出たの?!」
「ああ。少しだがな。」
「偉いねナナ、頑張ったんだねぇ……!」
ハンジさんが私の頭を撫でてくれる。
でもなんだか、声が出た状況が状況だっただけに……偉いと言われるとすごく恥ずかしい。
「どうやったら出た?話そうとしたら自然に出たってかんじ?」
「…………。」
「…………。」
まさか突っ込まれるとは思っていなくて、目線を逸らして俯いた。どうか頬に熱を持っていませんように。
エルヴィン団長も何やら無の表情で資料に目を落としたまま反応を避けている。
「えっ、なんか言ってよエルヴィン。ナナ喋れないんだからさ。」
「――――私の名前を、呼んでくれた。一言だけで、また話し方がわからなくなってしまったらしいが。」
「………ふぅん……?」
ハンジさんがじっとりとした視線で私を見る。
目が合わないようになんとか目線を逸らしてみるけど、ハンジさんにはいつもなんでもお見通しだから怖い。
「――――ナナに無理させてないだろうね、エルヴィン。」
「……………させてない…………はず…だ…………。」
「言いきれない時点で駄目だから。」
ほらやっぱりお見通しだ。
私はいたたまれなくて右手で顔を覆って隠した。
「ナナ!!!自分の身は自分で守らなきゃ駄目だよ!!こんな色気を垂れ流してる人の部屋に四六時中いたらもう、麻痺しちゃうかもしれないけどさ。痛かったり嫌だったりしたら蹴り飛ばすんだよ?!わかった?!」
エルヴィン団長がお父さんだとしたら、ハンジさんはお母さんだ。
いつも私のことを心配してくれて、かつエルヴィン団長まで叱りつけてしまう強さがある。
私はとてもおかしくて、ふふっと大きく笑ってしまった。