第82章 深愛 ※
「―――――ナナ。」
「??」
部屋に入る前に、ナナが振り向いた。
「―――――こっちにおいで。」
いつもならすぐに来るのに、何かを察知したのか、一瞬躊躇うように目を泳がせてから、ゆっくりと俺の手の届く距離に戻った。
座ったまま、ナナの腰に手を沿えて引き寄せる。
ぴく、とナナがほんの少し身体を強張らせる。
「鼓動に呼応するように痛みが走ると言っていたが――――、まだ痛いか?」
ナナの腰に添えていた手で、シャツの上からそっと背中を撫で上げる。ナナはぴくんと反応して、はっ…と小さく息を吐いてから、目を合わさずに首を小さく横に振った。
「そうか、良かった。」
ニヤリと笑むと、ナナの鼓動が早くなるのがわかる。
「――――ずっと我慢してたんだが――――……限界だ。君に触れたいナナ。痛い事も嫌がることもしないと約束する。君の肌を、生きている体温を、もっともっと―――――感じたい。」
性衝動を我慢するという感覚すら、ナナに出会って初めて知った。溜まったものを発散したければ相手なんてどうにでもできたし、そもそもそこまで特定の女性を乱したいと思うほどの興味を抱くこともなかった。
自分の欲をぶつけるだけでは嫌われるかもしれないから、彼女が応えてくれるか逐一様子を伺ったり――――、常に側にいるのに触れてはいけないというこの拷問めいた毎日も、最初こそ楽しんでいたが――――――限界だ。
心臓が大きく収縮している。
下半身に驚くほど、血液が集まっていることがわかる。