第82章 深愛 ※
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日が沈む前、ナナは他の兵士に会わなくて済むように、訓練中に誰もいない風呂に入りに行く。
もう随分となんでも1人でできるが、一向に声が出ないから―――――、事情を知っている人間以外に極力会いたくないのだろう。心配させてしまうことを気に病んでいる。
日が沈んで、一日の訓練の報告も上がってきた。
ナナが手伝ってくれたおかげで、随分仕事も捗ったから、今夜はいつもより早く食事がとれそうだ。食事は団長室に2人分運んでもらうよう手配していて、ナナも随分食べるようになった。向かい合って食事をしながら、ナナに問う。
「――――ナナ、自由の翼を見てももう――――発作はないのか?」
ナナはハッと、そういえば、といった顔で目線を上げてから、頷いた。
「そうか、良かった。自分を許せるようになったのか。」
目を伏せて、小さくだが、頷いた。
心はもう随分安定してきているのに、なぜか彼女の声だけが戻って来ない。
ナナは申し訳なさそうに食事を半分程度残して、ごちそうさま、とぺこりと頭を下げた。片手でもできうる限り食器を片そうとスープボウルを持ち上げた時に、その小さな手では滑ってしまったのか、ナナの胸元に残っていたスープが零れた。
「…………!」
「大丈夫か?」
せっかく風呂に入って着替えたのに、とでも言いたげに不機嫌に眉をしかめて、赤い染みのついた胸元を見つめていた。そうか、着替えを取りに行きたくても、今はみんながうろうろしている時間だから行けないんだな。
「ふふ、そうしょげなくていい。着替えを貸そうか?」
ナナは唇を尖らせて、小さく頷いた。
私室のクローゼットから、ナナが羽織れそうなシャツを貸す。そう言えば前にもこんなことがあったな、と懐かしく思う。
まだ左手は固定されたままなので、ボタンが留められない。ほぼ毎日脱がせて着せて――――をしているのに、未だに恥ずかしそうに毎回頬を染めるナナが、可愛い。