第81章 落月屋梁
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エルヴィンの唇から流し込まれる栄養は、私の身体に深く染み入った。
あの日のことを思い出しては自分を責め、悪い方へ悪い方へと循環していく思考を少し、食い止めることができた。
リンファが守ってくれたのに―――――、私が彼女の死の意味をないがしろにするなんて、あってはならないんだ。
どんなに辛くても、苦しくても、前を向かなきゃ。
とはいえ、そんなに簡単に吹っ切れるほどの絆じゃない。
数日経って、1人で起きられるようになった。左腕は相変わらず吊ったままだけど、右手は問題なく動かせる。
肋骨の骨折は痛みに、ただ耐えるしかない。
ずきずきとした痛みを抑えつつベッドから降りて、お手洗いに行こうとエルヴィンの私室から団長室への扉をそっと開けた。ちらりと覗いたその部屋で目が合ったのは、ハンジさんだ。
「あっっっ!!!ナナ!!!調子はどう?!!?もう歩けるの?!?!エルヴィンにむっつりなことされてない?!?!」
「どういうことだそれはハンジ。」
エルヴィン団長の言葉を無視して、ハンジさんは足早に私のほうに来てくれた。
診察してもらいやすいように、ぶかっとしたワンピースのようなゆるい恰好をしていたのでとても恥ずかしかったのだけど、そんなことお構いなしにハンジさんは私が快方に向かっていることに全身で喜びを表現してくれた。
「食事はちゃんととれてる?」
ハンジさんの問に、首を縦に振る。
エルヴィン団長を指さして、スプーンで私に食べさせてくれる、というジェスチャーをすると、ハンジさんはにっこりと笑った。
「エルヴィンが食べさせてくれるの?」
また私は首を縦に振る。