第81章 落月屋梁
「君は忙しいんだ。早く怪我を治して、実家の事業を立て直して、兵団に戻って来る頃にはそうだ――――可愛い弟のような子達が入団しているだろう。またその子達と共に、自由の空に挑んで、俺と一緒に外の世界を見に行くんだろう?―――ああ安心しろ、おそらくその時は――――リヴァイも一緒だ。」
涙で滲んだ濃紺の瞳が大きく開いて、俺の目を真っすぐに映す。
「なぁナナ、立ち止まってる場合じゃないだろう。治そう、早く。」
「――――……。」
「君に贈りたい菓子もたくさん見繕ってあるんだぞ?食べなきゃ勿体ないだろう?」
ナナは困ったように眉を下げて、ほんの少しだけ、笑った。俺はまた一口それを口に含んでナナの唇に寄せると、控えめに目を閉じて受け入れた。
「――――……いい子だ、ナナ。」
小さくもぐもぐとゆっくり噛みしめて、喉を鳴らす。
それを確認して、スプーンに小さく一口掬ってナナの口元に差し出した。
「ほら、もう少し食べられるか?」
「――――……。」
ナナはスプーンをちら、と見てから、俺をじっと見る。
「なんだ?」
「……………。」
「――――ああ………、まったく………そういう可愛い甘え方はよしてくれ………押し倒したくなる………。」
意味を理解した俺はまた一口、自分の口に運ぶ。そしてナナに口移した。まるで親鳥が雛に餌を与えているみたいだな、と思うと少し笑える。
唇を離すと、ナナは俺の首筋に顔をすり寄せて、体重を預けた。声にならないその想いを、伝えようとしているんだろう。
「ありがとうと言っているのか?」
「……………。」
ナナがゆっくりと唇を動かす。声にならないその言葉を理解したくて、その動きを観察する。
その意味を理解した俺は、たまらずナナを抱き締めた。
”……I love you……”