第81章 落月屋梁
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ナナが極端に食事をしない。
もともと自分をおろそかにする癖はあれど、ここまで生きることを拒否するのは初めてだ。
無理もない、最愛の親友を目の前で―――――自分のせいで失ったと思っている。自分を赦せるようにならないと、このまま衰弱していってしまうだけだ。失う悲しみは―――――少なからず、時が癒してくれる場合も多い。
とにかく今はほんの少しでも、無理やりにでも、食べさせないと。
「――――ナナ。辛いのはわかるが、治りたいという意志を持たなければ、治らない。」
「…………。」
「俺もいつまでも君につきっきりではいられない。」
「―――――………。」
あえて冷たい言葉を投げても、傷つく素振りもなく――――、彼女を通り過ぎていくだけのようだ。まるで『じゃあもう捨てて行って』と言わんばかりに目を伏せる。
「――――仕方ないな。」
俺は小さく一口をスプーンで掬って自分の口に含んで、ナナの後頭部に手を沿わせて押さえつけるようにして半ば無理矢理、その口をこじ開けて口移しで栄養を流し込む。
「~~~~っ……!」
小さく抵抗を見せるが、敵うはずもなくナナは諦めたのか、だらんと俺に身体を預けた。
「噛んで。食べろ。」
強く言うと、小さく咀嚼をしたかと思うと、口を抑えて、涙目で肩を震わせた。
また何かを思い出してしまったのだろうか。
だが、このままナナが弱り果てて命を削ることを許してはいけない。
リンファに、申し訳が立たない。
「何か辛いことを思い出したのか?」
「――――…っ……。」
「リンファを失ったことは辛い。君だけじゃない。」
「…………。」
「リンファが命がけで守ったものを、君が危険に晒してどうするんだ。」
俺の言葉にナナの震えが少し止まって、ゆっくりと俺を見上げた。