• テキストサイズ

【進撃の巨人】片翼のきみと

第81章 落月屋梁




―――――声が出ない。

リンファの名前を呼びたい。

もうここにいないけれど、その名を過去にしてしまうのが嫌で、呼び続けたいのに、声が出ない。



そして何より―――――サッシュさんになんて言えばいい?

会わせる顔がない。

私はサッシュさんから愛する人を取りあげてしまった。死なせて――――しまった。



なんで私が生きているんだろう。

誰の視界にも入らず、あの吹雪の中――――――私が1人で死ねたら良かった。

神様はなんて意地悪なのか。

あの一瞬の晴れ間が無ければ―――――あと10m、リンファが遠くにいたら、死なずに済んだかもしれない。



そんなことを思うと、また胸が苦しくて息が遮られる。



胸が痛いのは、肋骨が折れてるからとか、そんなことじゃない。そんなことよりもっとずっと――――――私自身の罪の意識が、生きる事を妨げようとしているみたいだ。



「食事は、食べられそうか?」



執務が大変な中、エルヴィンは定期的に私のことを見に来てくれて、介抱してくれた。

それもまた、とても申し訳ない。

この人の手を煩わせるために側にいたいわけじゃないのに。

私は黙って首を小さく横に振った。

食べたくない。

食べられない。

辛うじて呼吸はできているけど、生きる事に繋がる行為を身体が勝手に拒否しているみたいだ。



「そうか。でも―――――、だめだ、少しは食べないと。君が軽すぎて心配になった。」



エルヴィンは私を抱き起してくれた。

お皿によそわれたパンのおかゆをほんの少しスプーンに掬って、口元に持って来てくれるけれど、食べたくない。



「違うものなら食べれられるのか?」



その問にも、小さく首を振るしかできない。

もう行って。

私のことは放っておいていい。

それすらも言葉にならなくて―――――これを、絶望と呼ぶのだろうかとぼんやりと思う。

/ 3820ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp