第80章 喪失
「――――どうする。お前が傷ついたナナから逃げるなら、俺はナナを奪い返す。俺の私室に閉じ込めて―――――、実家にすら帰さねぇ。鎖で繋いで自由を奪って、毎日俺の物だと身体に教え込んでやる。」
必要以上に嫌悪を抱かせようとする物言いは、俺の背中を押そうとしているのか。
「――――……お前の優しさは、わかりにくいな………。」
「――――……あ?」
「ナナに、会いに行く。俺の私室で預かろう。ちゃんと―――――向き合って、考える。どうしていくのが最善かを。ナナと2人で。」
俺がリヴァイを見上げて言うと、ふん、と目を逸らせて、俺に背を向けた。
「――――そうか。」
「――――リヴァイ。」
「なんだ。」
「ありがとう。」
「あ?」
リヴァイが怪訝な顔で振り返る。
「ナナを助けてくれて。そして――――俺の迷いを、掻き消してくれて感謝する。」
「…………。」
「――――ただ、もろもろの口実を駆使して人の女の唇を奪うのは悪趣味だな?」
「…………てめぇが散々してきたことだろ。」
「――――本当だな。因果応報というやつか。」
「ああ。――――そうだ、ナナを私室に預かっている間の王都招集や会食は安心して行けよ。俺が預かる。人類最強の睡眠不足を解消できて戦力が上がるなら、一石二鳥だろう。」
リヴァイの嘲るような流し目に、ふっと笑いが込み上げてくる。
「―――――お前がいてくれて良かった、リヴァイ。」
「―――――………礼を言うのはまだ早い。せいぜい俺に寝盗られねぇように気を揉んどけ。」
「――――……ふふ。」
憎まれ口を残して、リヴァイは部屋を去った。
明日こそは、ナナを見舞おう。
俺の顔を見て、微笑んで欲しい。
優しく彼女を抱き締めて―――――生きてくれていたことを、たくさんたくさん褒めてやりたい。