第80章 喪失
ロイ君は掴み合いの喧嘩にならないのか、と言っていたが――――掴み合いの喧嘩よりもよほど厄介な奪い合いだなと思うと、ふ、と気が緩む。
「俺に奪われるのが嫌なら、早く会いに行け。あいつは、きっと待ってる。」
「――――なぜわざわざお膳立てをする?」
「―――――………。」
俺の問いに、リヴァイもまた少しの痛みを含んだ表情をして目を伏せた。
「―――――俺は兵士長が板についてきたからな。」
「どういうことだ。」
「――――素面じゃ話せねぇな。酒でも出せ。いいの持ってんだろう?どうせ。」
リヴァイが酒を欲するのは、何か心を落ち着けようとしている時だ。当たり前だが――――この壁外調査で思うところがあったのだろう。
「いつもいつも酒をたかるな。――――まぁだが………久しぶりにお前と飲むのも悪くない。」
戸棚からグラスを出し、琥珀色の液体を注いでリヴァイに手渡す。リヴァイはそれに少し口を付けた。
「―――――ナナが遠くで巨人に掴まれたのを見た瞬間、俺は目の前の4人の仲間を救う事を優先するために―――――ナナを視界から消して、声を消した。」
「――――………。」
「――――リンファが身体を張って時間を稼いでいなければ―――――、今あいつはこの世にいなかった。俺はナナを見殺せるように、なっちまったらしい。」
リヴァイの言葉に驚く。
この、なんとも複雑な心情はなんだ。
俺が求めた兵士長の姿に―――――リヴァイは理想通りの兵士長になりつつある。私情を挟まず、仲間を大切にしながらも情に流され過ぎず、常に冷静に物事を見極めて最善を尽くせる人物。
それなのになぜ胸が軋む?
万が一リヴァイにこんな顔をさせたことに対して俺は罪悪感を持っているとしたら――――――、それこそがナナの影響に違いない。
「――――その変化を、お前はどう思ってる。」
「あ?」
「辛いのか、悲しいのか、俺を―――――恨むか?」
「―――……さぁな…………。」
リヴァイは再びグラスを深く傾け、酒を煽った。
俺もまた同じように、同じ液体を流し込む。
空いたグラスをとん、と机に置いて、リヴァイは立ち上がった。