第80章 喪失
――――幹部会を終えて、ハンジとミケが席を立とうとしたが、リヴァイだけは足を組んだまま立とうとしない。
察したハンジとミケは先に退出し、俺はリヴァイと向き合った。
「――――怖いのか、ナナに会うのが。」
「――――……ああ、怖い。こんなに震えたのは、初めてだ。」
「別に瀕死なわけじぇねぇ。生きてる。」
「――――……わかってる。」
「―――――らしくねぇな。」
リヴァイがはぁ、とため息をつくように俺に目線を向けた。
「俺らしいとは、なんだろうな。」
「あ?」
「冷静沈着で、計算高い割に博打を打ちたがる調査兵団の頭か。」
「――――よくわかってんじゃねぇか。」
「ナナといると、違う俺がいることを思い知る。」
「――――………。」
「俺は傷にまみれたナナを見たら―――――閉じ込めて、二度と飛べなくなればいいと、願ってしまう。目に浮かぶんだ―――――俺がナナの意志を捻じ曲げたことに絶望する彼女の悲しい顔が。」
「『そこに彼女の意志はないのか?』―――――お前が俺に言った言葉だが。―――――……わかったかよ、この調査兵団であいつの意志を尊重しながら側に置く難しさを。」
「――――………。」
「だが、泣き言は聞きたくない。」
「………相変わらず、厳しいなお前は。」
「――――当たり前だろう。閉じ込めて愛でるだけの愛し方でいいなら―――――、お前に渡す義理はねぇよ。取り返してやる。俺が――――どんな姑息な手を使っても。そして一生側に置いて愛し抜く。」
いつもリヴァイは、ここというところでは俺に折れる。
それが主従関係によるものなのか、俺を信頼しているからなのかはわからないが―――――、今回はそうではなく、確固たる意志を感じる。
こいつの有言実行率の高さは俺が一番知っている。
だが、俺にも譲れないものがある。
「――――絶対に渡さない。」
「――――いい度胸じゃねぇか。」