第79章 試練
「お願い、お願い……!行って……!サッシュさんのところに、無事に、帰って―――――……。」
涙ながらに懇願しても、リンファは頑なにそこから逃げてくれない。
「――――できるかよ、あたしにとって、あんたがどれだけ大事か、知らないの…っ……?」
さらにギリ、とその口に力を込められていく。ブレードが折れたら――――――リンファはそのまま食われて、しまう。
「嫌だ!!!お願い、私はもう戦えないから……っ……捨てて、行って――――――……。」
「でき、ない……っ!!!」
もともとブレードの強度は高くない。
しなるように弛んだブレードが――――――折れた。
「―――――ナナ、生きて――――――」
「リン………………――――――」
笑顔のリンファから発されたその言葉を最後に、私の世界から、音が消えた。
目の前で、リンファの髪飾りが弾けた。
まるで時が止まったように、その小さく輝く石たちが弾けてキラキラと輝きながら、ゆっくりと落ちる。
噛み千切られた艶やかで美しくて大好きだったその黒髪が、風に乗って流れていく。
私が浴びたこの温かい血は、巨人のものじゃない。
だって蒸発しない。
じゃあ誰の?
私の?
私のであれば良かった。
愛してやまない戦友の―――――彼女のものだなんて、信じたくなかった。
私はただただ、それを見ていた。
血に染まった自由の翼が、咀嚼に合わせてゆらゆらと揺れる。
また力を込められて、身体の節々に激痛が走るけれど―――――声も、出ない。
やがてこの世界から色も光も消えて―――――私は闇の中に一人、突き落とされた。