第79章 試練
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もしも本当に神とやらがいるのなら。
そいつは本当に意地が悪いと思う。
一瞬の晴れ間など寄越さなければ―――――ナナが巨人に掴まれたその姿を見ていなければ、こんなに身体が硬直して動けなくなるなんてことはなかったはずだ。
難なく奇行種を削いで終わりだったはずなのに。
立体機動も使えねえこの平地で、ナナが食われるあと数秒で、この距離は詰められない。
それよりも確実にここでこの奇行種を削いでおけば、ペトラとエルド、アーベルとカーラは確実に守れる。
何を判断に迷う必要がある。
今俺がナナを助けに行っても、骨を砕かれてその身を裂かれる音を間近で聞くことになるだけかもしれない。
だから諦めるのか。
ナナの命を。
兵士長だからという理由で。
一番守りたかった女を、俺に生きる意味を与えてくれたあいつを―――――――
失うのか。
「――――できねぇよ……っ……!」
「――――兵長?!っ………きゃあぁっっ!!!」
「ペトラ!!!!!」
俺の一瞬の迷いで、ペトラが奇行種に吹き飛ばされた。
「!!!!!」
俺の中で、何かが吹っ切れた。
ナナを、視界から消した。
遠くに聞こえた気がしたその悲鳴も、聞かなかったことにした。
目の前の仲間の命をより多く、守るために。
ペトラに向かって手を伸ばすその汚ねぇ手を切り刻み、怒りを込めてその項を削ぎ落とした。
「――――兵、長……。ありがとう、ございます……!」
「―――――………。」
この距離でナナ救える方法なんて無かった。
それは事実だ。
―――――だが、ナナを見殺す決断をした自分に愕然とした。『俺の視界に入らないところで死ぬな』と言った俺が、ナナから目を背けた。
ナナの生死がなによりも気がかりなはずなのに、俺は怖くて――――――振り向くことが出来なかった。
「おい、あれ……!ナナじゃないか?!助けに行きましょう、兵長!!!!」
エルドの声でナナがまだ生きていると知ると、我に返った俺は馬に跨り駆け出していた。