第79章 試練
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混乱を来たしていることが明らかな、信煙弾の乱発。
エルヴィンは察して、方向を示すために緑の信煙弾を5発同時に撃つように指示した。確かにこの視界で、1発で全隊に届くとは思えねえし、なにより、進めという―――――生きて帰れという確固たる意志を込めている。
「――――視界を奪われ、隊の内部に巨人の侵入を赦しています!戦闘が始まっています!!!」
数々の信煙弾が上がってから少し間を置いて、伝達が何とか辿り着いた。
「視界がなく、混乱と焦燥によって緊急事態の信煙弾を放っているかもしれない。――――が、放ってはおけない。リヴァイ、奇行種も確認している左手後方を任せる。ディータ、右手前方の様子を見に行け。」
「はい!」
「―――了解だ。」
俺が駆けつけた時には、奇行種と通常種2体と混戦状態だった。
――――すでにかなりの数がやられている。急襲を受けたか。
「――――ちっ………。」
馬で駆ける間、そこらに転がっているのは―――――さっきまで生きていた、仲間だ。ちらりと見たその遺体は、信煙弾を握りしめていた。撃った瞬間、やられたか。
――――この光景は、あの嫌な日を思い出す。
その骸の中で、あの白銀の髪が揺れていないことを願う。
ほんの少し突風が吹いて、吹雪が一瞬凪いだその瞬間、通常種の背中にアンカーを打ち込む。ガスを最大にふかして最速で近づき、その項を削ぐ。
「―――――兵長!!!!!」
「アーベル、カーラ。もう一体は任せる。俺はこの気持ち悪ぃ奇行種をやる。」
「はいっ!!!」
動きの速ぇ奇行種だ。なんとか取り付いて隙を伺っているのは―――――、エルドとペトラか?あいつら2人なら放っておいてもやれるだろうが―――――、損害は少ないに越したことはねぇ。
「エルド!ペトラ!そのまま注意を引いてろ。俺が削ぐ。」
剣を強く握りしめたその瞬間、リンファの声がした。
「―――――ナナっっっ!!!!」
「――――――?!」
その名を鬼気迫った声でリンファが呼んだ。
何かがナナの身に、起きている。
身体が、一瞬硬直した。