第79章 試練
なんとか小雨の状態で2つ目の拠点設営ポイントでの物資搬入を終えようとしているあたりから、雨は雪に変わって――――――勢いを増した。
分厚い仄暗さを宿した雲が、私たちを覆う。
「―――――目標は達成!!!これより、帰還する!!!!天候が怪しい、十分に警戒せよ!!!」
エルヴィン団長の号令とともに、日が傾き始めた頃に隊は帰路についた。
日没まで………巨人たちの活動がなくなるまで、なんとかこの程度の視界を保ったままでいられたら。
その儚い願いをあざ笑うかのように、吹雪と化した。
「――――視界が、ほぼ、ない……!」
索敵が機能しない。
急襲に備えなければ………!
お願い、みんな、どうか、無事に帰ろう―――――。
そう思った瞬間、本隊すぐ右手から赤の信煙弾、続いて左手後方からも赤、そして黒と、立て続けに信煙弾が上がった。
その後またすぐに、紫が前方右手、左手後方から上がった、ように見えた。
「――――なんだ?!なにが起きてる!!!」
誰かの声が次々に、聞こえる。
「わからねぇよ、全然見えねぇんだからわかるわけねぇだろ!!!!」
「このまま直進するでいいのかよ?!指示はどうなってる?!」
無理もない。気を抜けば一瞬で命を奪われる奴らの縄張りに、視界を奪われて放り込まれた状態で―――――冷静に物事を判断できる人なんて、おそらく彼らくらいだ。
「落ち着いて!!!!!絶対に指示がある、聞こえるように、少しでも見えるように、落ち着いてください!!!!」
顔も見えない仲間に向かって、私は叫んだ。でもその声は吹雪にかき消されて―――――どこまで届いただろう。
「――――その声、ナナ?!いるの、そこに?!」
「リンファ!!!!!」
ほんの少しずつ人影が濃くなり、私の横に並走するリンファを見つけた。
良かった―――――私は心の底から安堵して、その一瞬、警戒を怠ったんだ。
私の進行方向正面でゆらりと揺れた大きな影に、心臓がひきつった。