第79章 試練
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簡単な処置はもう随分、医療班の子達に任せられるようになった。私は重傷者の処置をする。
裂傷の縫合や、血が溜まっているのを抜いたり、腕や脚を欠損した場合などだ。中には、もう助からない状態で運び込まれてくる兵士もいる。
この場に輸血ができたり手術ができる環境が整っているなら救える命も、ここでは諦めざるを得ないことも多い。
右肩から腹部まで齧り取られ、一部の肋骨が露出している状態の仲間を見た瞬間、私でも目を背けたくなった。胃が搾り取られるように収縮し、吐きそうになる。それを必死にこらえて、相対する。
仲間が生きた意味を、私が受け取る。
そしてせめて安らかに逝けるように―――――その手を強く握った。
話しかけると、彼は小さく「なんのために俺は死ぬんだ」と呟いた。
込み上げる涙を堪えて、優しく微笑みを向ける。
「――――人類を救うため。あなたが愛する人を、救うためです。大丈夫、私たちがその意志をちゃんと継ぐから。安心して。」
私の言葉にどれほどの説得力があったかなんて、わからない。うすっぺらい戯言に、彼には聞こえたのかもしれない。
それでも彼はほんの少し笑んで、息を引き取った。
束の間の移動中断を経て、隊はまた動き出した。2つ目の拠点設営ポイントに向かうためだ。
――――雨の、匂いがする。
私はぶるっと、身を震わせた。寒い。
雨が―――――やがて雪に変わるかもしれない。