第79章 試練
ふと目をやると、そのナナが忙しく駆けまわっている。中断している間に、医療班の兵士それぞれの力量に合わせて負傷者を割り振り、処置の指示を出しているようだ。
ナナは荷馬車に運ばれてきた一人の兵士の前で、一瞬ぴく、と肩を震わせた。
巨人に食われたのか、右肩から腹部にかけて大きく欠損していて―――――もう、助からないのだろう。
その兵士の血まみれの手をしっかりと握り、何かを囁いて、その青白い頬に手を寄せると、そいつは安らかな顔で目を閉じた。
その手をそっと下すと、小さく涙を拭って、また次の負傷者のところへと駆け出す。
ナナの母親と、その姿が重なる。
母親の意志を継いで、あいつはまた少し強くなったように見えた。
「――――リヴァイ。」
「なんだ、エルヴィン。」
「一雨来るな。」
「――――ああ、もう一つの拠点設営場所まで持つかどうか、か。」
「――――そうだな。帰路が怪しい。」
「もう一か所の拠点設営場所への資材運搬を諦めて帰着するか?」
「―――――いや、そうするとまた一回多く壁外調査を組むことになる。終えてしまうのがいいだろう。」
「――――同意だ。雨脚の強さもまだわからねぇしな。」
「もうすぐ出立できる。急ごう。」
「了解だ。」
資材の運び込みをしている間も、数か所で戦闘は起きていたが―――――、精鋭も多く配しているため、多少の死傷者は出ているが、隊の存続が危ぶまれるほどのダメージもなく討伐出来ている。
再びエルヴィンの指示によって、隊は動き出した。