第78章 抗
―――――壁外調査の2日前。
兵舎はいつもの雰囲気に包まれていた。
慌ただしい準備の中で、それぞれが自分の死と向き合う。
明日にははもう、トロスト区に向けて発つ。兵舎でのこの時間、震えながら遺書を書く新兵や、おまじないのように決まった願掛けをする兵士。それぞれがそれぞれの時間を過ごす。
私は、執務をこなしながら団長室の窓から月を見上げた。
煌々と輝く月が、夜空を照らしている。
だけど、その漆黒の夜空があるからこそ月は輝けるんだと、双方の存在がいかに大事なものか、愛おしいものかとぼんやりと想う。
「――――怖いか?」
私の様子に、エルヴィン団長がふと目をとめて投げかけた。
「――――いえ、初めての壁外調査の時は、エルヴィン団長には不甲斐ない姿しか見せられなかったので――――、今度こそ、頑張ろうと思います。私のいる意味をちゃんと残せなければ、悔いが残る。」
「――――そうか。そういえば、リヴァイから立体機動の合格をもらえたそうじゃないか。」
「はい。」
その時のことが面白くて、思わずふふ、と笑ってしまう。
「昨日見てもらったんですが――――、正直使えるようになっているなんて思っていなかったそうで、すごくすごく驚いた顔をしたあと、とても不機嫌に一言……『ちっ…、提案するんじゃなかった。わかった、行っていい』と。」
「……はは、リヴァイもリヴァイだが、君も君らしいな。」
「私が言い出したら聞かないのは、お二人ともよくご存じのはずです。」
「そうだな。」