第78章 抗
その日は、王都に泊まらずに夕方から夜中にかけて馬を駆って、深夜に兵舎に帰着した。ナナの事が心配で、次の日の朝には、彼女の顔をどうしても見たかったからだ。
翌朝、食堂で見つけたナナは随分顔色も良く、リンファと話しながら食事もしていたし、なにより左足を引きずるような歩き方もほとんどなくなりつつあり、回復の兆しが見えていた。壁外調査に向けてバタつく執務を、怪我を負った身体でも着々とこなしていく。
それに―――――調査に出なくてもいいと言ったのに、彼女は『行く』と即答だった。
長期で兵団を離れる前に、けじめとして医療班の現状把握と行く末の展望を見定めることを、しておきたいのだろう。
「ねぇエルヴィン!」
私の肩にぽん、と手を置いて、いつもながらに明るい声をかけてくるのは、ハンジだ。
食堂から執務室に戻る廊下で、立ち話をした。
「今回の私の隊だけどさ、ちょっと入れ替えを提案したくて―――――」
「ああ。」
壁外調査での隊編成について少しだけ話すと、ハンジはあ、そうだとばかりにナナの話題を出した。
「ナナ、連れてくの?大丈夫かな……左手の指が思うように動かないって……それが、心配だよ。」
「ああ……そうなんだが……本人が行くと決定している以上、尊重しようかとは思っている。」
「……でも、立体機動が……使えないんじゃ、連れて行けないでしょ……。」
「それが――――なんとかすると言って聞かない。」
「なんとかって………逆手でブレード持つとか?リヴァイみたいに?無理だよ……そんな芸当……。」
ナナは左手の人差し指と中指を、ぴくりとは動かせても力を込めることが出来ない。
――――いやむしろあの傷で、指2本の機能を失っただけで済んだのが幸いだとも思うほどだ。