第78章 抗
「―――――これは、個人的な質問だが。」
ザックレー総統が小さく一言を漏らした。
「――――ナナの心は無事か?」
「はい、彼女は強いので。」
「そうか……。」
丸縁の眼鏡の柔らかな曲線の奥に鋭さを隠し持ったザックレー総統の目が、この時ばかりは安堵したように細められた。
「――――内容は分かった。が、それが真実ならば逆に中央憲兵に対しての疑問が浮かんでくるな。」
「――――仰る通りです。王都での任務を遂行する彼らが、『偶然』ウォール・シーナ外のそれもはずれにある小さな町で我々の動向を目撃した、なんてことはない。これは前から主張している、ナナ・オーウェンズへの嫌疑をなんとか事実にしようと目論んでいるとしか、私には思えません。実際、この変質者だけでなく、洗練された兵士の尾行がここ数か月ずっと、ナナにはついていました。」
「――――………。」
「今はその視線も無くなり、彼女は休養ができていますが―――――。もし今後も同様のことがあるなら、私は団長として兵士を守るために、彼らと闘うことすら厭いません。」
「――――……おいおいエルヴィン、穏やかじゃないな。」
「穏やかじゃない方法で仕掛けてきたのは、向こうです。―――――元々の気質として、我々調査兵団が守ることより、攻めることが得意なのは――――ご存じの通りですが。」
「――――わかったよ、そう牙を剥くな。お前は怖い男だ。」
「――――お褒めの言葉、恐縮です。」
「翼の日、だったか。あれは王都の商家に大変好評で兵団の株も上げてもらった。ナナには我々も借りがある。奴らの好きにさせるのはいただけんしな。この件は私が引き取ってうまくやろう。」
「心強いです。ザックレー総統。」