第78章 抗
「そうしたかったのですが、私の補佐官のナナ・オーウェンズは、その一般市民によって負わされた重傷によりこの場にはせ参じることが叶いませんでした。」
「なに……?」
「彼女は今兵団にて療養しています。左腿と左手の刺傷……左手に至っては貫通するほどで、後遺症が残ることも十分考えられます。それに顔面の殴打による打撲です。」
その怪我の様相を想像したのか、場内が静まり返る。
私は懐から今までビクターが送りつけてきた数々の気味の悪い手紙や、ナナの血がべっとりと付着した封筒を出した。
「これらは、数か月前からその一般市民がナナへの歪んだ想いを綴って寄越してきた手紙です。一度は刃を仕込んで―――――、開封した途端に切創を起こす仕様になっているなど、手の込みようからその異常性がわかりますが――――――、この差出人の男は元調査兵で在団時に彼女に思いを寄せており、暴行を働こうとしたところを、をリヴァイ兵士長ともう一人の兵士が食い止めた過去があります。」
またもや場内が激しくざわつく。椅子に座ったピクシス司令が、辛そうに目を細めたのが見えた。
「――――なかなか厄介な話だ。待て、今回その3人が居合わせたのは、偶然ではあるまい?」
「はい。これらの手紙の文面から、その男が怪しいと踏み、過去の入団資料などから筆跡を引っ張って調べたところ一致の可能性が高く―――――、こちらから相手を行動に移させ、炙り出す策を講じました。何か月も嫌な視線と手紙を送りつけられ、彼女の心の疲弊も見られたためです。」
「――――………。」
「私が相手の異常性を軽く見積もってしまっており、ナナは2回もナイフで貫かれるという痛ましいことになってしまいましたが――――……その戦闘の中で相手にも怪我をさせることは避けられなかった。これが正当防衛以外に何と言っていいのか、私には見当もつきません。よって出頭を拒否します。」