第1章 出会
今まで一人で外出など絶対に許されなかったのに、あっさりと私は自由になった。いや、興味を持たれなくなったのだろう。
私はワクワクしていた。
どこへ行こうと、何をしようと、私を縛っていたものは何もない!母は自由になった。
だから私も、自由になっていいんだ。
それから気の向くまま、一人の時は色んな場所へ出かけた。そしてお気に入りの場所ができた。
古びた時計塔の中の螺旋階段を、上へ上へと昇っていく。ふと視界が開けると、街を一望できるほどの高さだ。
ほら、空はこんなに広い。
屋敷に閉じこもってなんか、いられない。
母は私を捨てたのではない。あの屋敷から、飛び立っただけ。頬を涙が伝っていたことに、気づかないふりをした。
「おや、珍しい先客だ。」
優しい声に振り返ると、そこにはボサボサの白髪で、ただどこまでも優しそうな目をした老人が立っていた。
「……何か、嫌な事でもあったのかね?」
その老人はポケットからハンカチを出すと、そっと私の前に差し出した。私は顔を赤らめて俯いたまま、そのハンカチをとって、涙を拭いながら言った。
「………嫌なことを……これで良かったんだと、思うことにしたの。」
「ほう。」
老人は関心したように目を少し見開いた。
「強く賢いお嬢さん。少し……老いぼれの話相手になってくれるかい?」
私はふふっと笑うと、老人の横に腰かけた。
「もちろん。私、ナナっていうの。おじいさんは?」
「ワーナーだ。」