第77章 己己
「あともうここまで揉めたならついでに聞いておこう。この先またぎくしゃくするのも嫌だからな。――――嫌だったら、答えなくていいが―――――、先に言っておく。嫉妬はするものの、君を責めないし、怒らない。」
「………?」
「――――リヴァイと何か、あっただろう?」
「……………。」
ナナは、思ったより動揺しなかった。
不思議と俺も、そこまで動揺しそうにない。
リヴァイのことは、それなりにわかってるつもりだ。
自分のせいでナナを怪我させたと相当落ち込んで―――――、かいがいしく看病をするうちに以前の空気に引き戻されて―――――、我慢できずにキスの1つや2つ奪ってるんだろう。
ナナは少しだけ気まずそうに、目を伏せて応えた。
「どうやら私が夜中に相当うなされていたみたいで……添い寝して、くれて……体温を貸してもらいました……。」
「そうか。他には?」
それだけで済むはずがないと、張り付けた笑顔で更に問う。
ナナは少々困った顔をしつつ、唇を小さく指で触る。そしてその指を離して、その出来事の回数を数えるように指を折りながらしながら話す。
「――――過呼吸を止めるためという口実のキスと。」
「――――ん?」
「――――クッキーを味見するという口実のキスと。」
「―――――ん??」
「あと……首を噛まれました。それくらい……です……。」
「ちょっと待て、何かおかしいな?」
「……そう、おかしいんです。私も、リヴァイさんも。」
「いや、リヴァイがおかしいのはまぁそうなんだが、君も“口実”だとかわざわざ言わなくてもいいな。余計に心が抉られる。」
無神経なのはお互い様か。
馬鹿正直に全て話す君がまた、愛おしくもある。
「そうですか。」
冗談めかして言った俺の表情を見て、ホッとしたようだった。怒っていないことに安堵したのだろう。
確かに怒らないと言ったが、嫉妬は間違いなくしているんだと、分かってもらわなくてはならない。