第77章 己己
「――――嫌い、嫌い………!」
「――――悪かった、ナナ。君が俺を嫌いでもいい、俺は君が好きだ。」
「…………。」
ナナはひっくひっくと肩を震わせて、ようやく、俺の目をほんの少しだけ見上げた。
「俺の言い方が悪かった。だが、分かって欲しい。兵団を、人類を守るために―――――人の命を奪うことは、これからもきっとある。リヴァイにそれを課すこともある。だが―――――君の言う通り、医者である君に対して無神経だった。それに………命を奪う側の心も削がれるというのはその通りだ。その行為を決して、軽んじないように肝に銘じる。」
「…………。」
ナナは目を真っ赤にして、じっと俺を見上げている。
「―――調査兵団にいる限り必要な覚悟だと、思って欲しい。」
「…………。」
「今すぐにとは言わない。ゆっくりでいい。君がわかってくれるまで、何度でも話そう。」
「―――ごめん、なさい……。」
ナナが小さく呟いた言葉が思いもよらなくて、ふっと思わず吹き出してしまった。
「何を謝る?」
「……嫌いって、言って、ごめんなさい……。」
「いい。君の気持ちは君のものだ。俺が嫌われるようなことをしたのだから、受け入れる。」
「……嘘をついて、ごめんなさい……。」
「まだ謝ることがあるのか。何の嘘だ?」
本当に少女を相手にしているようで、ほだされる。
リヴァイだけが知る、少女の頃のナナが垣間見えているようで、これはこれで貴重だ。
「――――嫌いなんかじゃ、ない………。」
―――――あぁもう、なんなんだこの娘は。少女のようだと思えば、時に聖女のようで、時に男を惑わす悪女だ。
どんどん知りたくなる、君の全てを。
「ああ、それは嬉しい。」
俺が少し笑むと、ナナもふ、と少しだけ笑った。