第77章 己己
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両手で耳を塞ぎながら顔を横に小さく振って、ぼろぼろと子供のように涙を零す姿を見て、俺がいかに彼女を傷付けたのかにようやく気付いた。
普段の俺なら―――――“団長”の俺なら、もっと柔らかに、ナナを傷付けずに理解させることができたはずだ。
それができなかったのは―――――リヴァイとナナが2人で過ごした時間への苛立ちに加えて、彼女が初めて俺に怒りをぶつけた理由がリヴァイを庇うためだというそれが気に食わなかった。
だから必要以上に残酷な言葉で事実を鋭利に突き刺した。
団長としてそれっぽい理屈を並べておきながら、その鋭利な言葉を吐き出していたのは、間違いなく嫉妬に駆られたエルヴィン・スミスという一人の男だ。
公私混同も甚だしい。
「――――ナナ………。」
どうしたら、その涙を止められる。
こんな風に泣かせたかったわけじゃない。
混沌とした思考の中、ナナの頬に手を寄せると、怯えるように震えながら、泣きながら、ナナは俺の手から逃げるようにして拒否の意志を見せた。
「……私は……っ………医者、です………!」
「……………。」
ナナが、俺を見上げる。
「どうやっても救えない……命にも、縋りながら………命を、繋ぎ止める……のが、仕事です……!」
「………ああ、そうだな。」
「命が消えゆく、その瞬間の怖さを、知ってるから………!私のためにとか、関係なく、命を奪うことは――――奪う方の心も削がれるから……っ……愛してる人に、人を殺して、欲しくないと思うのは、甘いですか……いけない、ことですか………!?」
ナナはぼろぼろと涙を流しながらも、意志の強い目で俺を見上げる。
一瞬たりともその目を逸らさない、そこに彼女の強さが見える。