第77章 己己
「エル、ヴィン……団長……?大丈夫ですか………?」
心配になって小さく問うと、エルヴィン団長は私の左手をそっと握って、自分の顔に寄せてキスをした。
「――――ひどい怪我だと、聞いた。」
「えっと……軽くはないですが、一応指も全部揃ってますし、五体満足ですし、大丈夫です。」
「――――この痣もだろう?」
エルヴィン団長の手が、私の頬に添えられる。
「そう、なのですが……これは隙を作るためにわざと殴らせたんです。だからこれは、私が戦った勲章です。」
大丈夫だ、問題ないと微笑む。それでもやはりエルヴィン団長は眉を顰めたままだ。
「――――この掌と、腿を刺されたのは―――――抵抗できなかったのか……?」
「……はい、出会いがしらにいきなり、だったので……対人格闘術を学んでいても、元熟練兵士には敵いませんでした。不甲斐ないです。」
「――――ビクターは出会い頭にいきなり、君を刺したのか。2度も―――――。」
「………エルヴィン、団長……?」
エルヴィン団長の中から、怒りが沸き起こるのがわかった。
すごく、怒ってる。
今までに一度も、見たことがないくらいに。
私の頬に添えられていた手がそっと離れ、ぎり、と強く拳を握って私の背後のドアに叩き付けられ、ドンッ!!!という大きな音に、思わずビクッと身体が震えた。
エルヴィン団長がものにあたるところも、初めて見た。
苦しそうに私の耳元で、小さくそれは告げられた。
「―――――俺は後悔してる。」
「………何をですか……?」
「あの日あの時――――――リヴァイを止めたことを。」
何のことを言っているのか、一瞬分からなかった。
けれどその意味を理解すると、私の中には小さく、だけど確かに疑心と憤りが沸いて来ていた。
「――――それって、リヴァイさんがビクターさんを倉庫で制裁したことを、指していますか……?」
「そうだ。」
「――――なんで、そんなこと言うんですか……?!」
私は身体を離して、抗議の目を向けた。
エルヴィン団長には、言って欲しくなかった。
そんなことを。