第76章 束間
「少し前に―――――、誰かのことを、恐らく――――とても好きな人のことを想いながら、目を輝かしてその茶葉を手に取っていた女の子がいてね。」
「……………。」
「その子の好きな茶葉を買ってくるように、と頼まれたのに―――――、その頼んだ人の好みに合いそうな茶葉を見つけて目を輝かしていたのが、とても可愛くて。」
「……………結局、そいつは何を買った?」
「――――これです。『頼んだ人の望み通り、あなたの好きなもの』を選んだら?と声をかけると、とても悩んだ結果、これを。」
店主の女が差し出して来た見覚えのある缶を手に取り、蓋を開けて香りを確かめる。
「――――ああ、少し甘ったるかったが―――――、悪くなかった。」
「差し出がましいようですが、その子は昔から、甘い香りのする紅茶に焼き菓子を合わせるのが大好きですよ。」
ナナと初めて会った日を思い出す。
ワーナーへの贈り物として、あの日も―――――くしゃくしゃになった紙袋に入った菓子を握りしめていたな。
思い出の中のナナはまだとても小さくて、俺が守ってやらなければいけないほどか弱くて、思わず笑みがこぼれる。
「――――ちなみに、その紅茶に合う焼き菓子はこちらです。」
「――――とんでもねぇ商売上手だな。」
「ふふ、こっちも喜びますよ?」
「―――――ちっ………全部寄越せ。」
「ありがとうございます!どうぞ今後ともごひいきに!」
いい酒でも見繕って買って帰るか、と思っていたのに―――――、結局俺は一切食わねぇ菓子を抱えて帰る羽目になった。