第76章 束間
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翌日ナナ達は朝から病院へと向かった。その道中を静かに、尾ける。
ビクターの気味の悪い視線とともにもう一つ、かなり訓練された奴の静かな視線を感じていたが―――――ナナの家に着いた頃から、中央憲兵と思わしきその視線は感じなくなった。
ナナに対する警戒が解かれたのか、はたまたなにか吊し上げる材料でも掴んだのか、ナナを監視している奴が完全にいなくなっていたことを確認して、俺は王都の街に出た。
ナナの書いたメモを見ながら、茶葉の専門店を探すと、大通りから少し逸れた小さな路地に、その店を見つけた。
「いらっしゃいませ。あら、調査兵団の方とは珍しい。ゆっくりしていってくださいね。」
俺が店に入ると、愛想のいい店主と思わしき女がにこりと笑う。なかなかの種類を取り扱っていて、俺は色々と手に取って紅茶を吟味していた。
「――――どんなのがお好みですか?」
「………そうだな、渋みはあまりなく、ブランデーに合うものがいい。」
「…………そうですか、それならおすすめしたいものがあります。ちょっと待ってくださいね。」
女は一瞬驚いたような顔を見せたと思うと、なぜか嬉しそうな顔をして、背を向けて店の奥から一種類の茶葉を持って来た。
「ここの店を、どこで?」
「………うちの兵士が勧めてきた。」
「――――その茶葉は、どうですか?」
「――――とても好みだ。これをくれ。」
「ふふ。」
「あ?」
なにが可笑しいんだ、そう思って怪訝に目線をやると、店主の女は嬉しそうな笑顔で柔らかく話し出した。