第76章 束間
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豪勢な部屋に通され、長く一息吐いてからベッドに倒れ込んだ。
ロイが荒れるのも無理はない。
守ると――――、死なせないと約束したのに。
ひどい怪我を負わせた。
だが、リンファを見殺してナナを無傷で助ければ良かったのか?いや、そうすればナナの精神が壊れかねない。特にリンファを失うことはナナにとって、心を支える柱の一本を失うに匹敵する。それくらいの存在だ。
ナナの言う通り、おそらく兵士長としての判断は間違っていなかったんだろう。2人の命は守れた。それで良かった。
そんな事を考えていると、あることに気付く。
そもそもその“兵士長としての判断”の奥底にもナナが壊れないようにという私情が隠れていて、俺の中のどれだけをあいつが占めているのかと思うと、怖いとすら思う。
「――――は………笑えねえ………。」
――――違うな、俺が考えるべきは―――――見殺せば良かったのか、じゃない。
どうすれば2人をより傷を負わさずに守れたか。それを考えるべきだ。
……リンファは動ける奴だ。対人格闘術も悪くない。なら俺がその場に直接助けに入らずとも――――、刃をぶん投げて相手に隙を作ってやるだけでも、十分だったかもしれない。
そうすればナナにもあと3秒は早く詰められた――――せめて左手を刺される前に、助け出せたかもしれねぇ。
もともと出会い頭にビクターがナナを刺すこと自体が想定外だったが、ナナは約束の4秒に甘えすぎることもなく、俺が来ない事に絶望することもなく、考えて動こうとしていた。
戦闘は、経験だ。
その経験値をより強固に自分のものにするために―――――、あらゆる想定をする。
俺はもう一度あのシーンを思い返し、自分が兵士長としてとるべき最善の姿を思い描いた。
同じ失敗は、二度としない。