第76章 束間
その日の昼過ぎ、私たちは王都へ向けて出発することにした。
「――――もう発つのか?」
先生はとても心配そうな目を向けた。
「はい。大変お世話になりました。」
「まだ、歩くのもままならないだろう。」
「いえ、大丈夫です。なんとかなります。」
頑なに発つと言う私を止めろとでも言いたいのか、先生はリヴァイ兵士長に目線をやった。
「――――大丈夫だ、俺がちゃんと送り届ける。」
「……そうか、無理に止めはしないが。気を付けてな。」
「厄介ついでに一つ頼みたい。トロスト区付近の調査兵団まで手紙を届けたいんだが――――この町で頼めそうな先はあるか?」
「ああ。そういう仕事を知人がやっている。頼んでやろう。」
指が満足に動かせない左手で手綱が握れるのか―――――若干の不安はあるものの、昨日帰ると言っていたのに連絡もせず帰れないままになっていて、お母様やロイ、ハルもとても心配しているはずだから。
とても良くしてくれて、手当までしてくれた先生に何度も深く頭を下げて御礼を言って、私たちはその小さな町を発った。
リヴァイ兵士長は私の顔色をうかがいながら、度々休憩を挟んで、なんとか王都まで辿り着いた。
リヴァイ兵士長はエルヴィン団長に手紙を書いて、あの先生に届けてもらうよう託していた。
元々1日だけの帰省で、何事も無ければ帰りもリンファが付き添ってくれる予定だったが、予定も大幅に変わってしまって帰路は明後日になる。
嫌な視線も感じなくなったし、私は1人でも平気だから先にリヴァイ兵士長には兵団に戻るように頼んだけれど、了承してもらえなかった。
私の主張は『その怪我で1人で帰せるわけねぇだろう、馬鹿か。』と一蹴され、結局あと2日間、私の実家にリヴァイ兵士長を繋ぎ止めてしまうことになった。
―――――申し訳なさと共に、とても気がかりなのは―――――ロイとのことだ。