第75章 再燃
「――――今回はあいつに、キスされなかったのか。」
横たわる私の顔をふいに覗き込んで、よくわからない事を問う。
「されてませんよ。大丈夫です。」
「――――されたよな?」
「……………されてません。」
その質問の意味を理解した時には、もうギシ、とベッドを鳴らして、その上半身が私に覆いかぶさっていて―――――逃げようにも、さすがにあちこち痛くて、身を捩れない。
とてもまずい。
「――――呼吸が早いな。」
「リヴァイ兵士長、近いです………!」
「苦しそうな顔だ。」
「それは、あなたが―――――。」
この距離で、その三白眼で、その声で、その匂いで――――私を乱すからだ。とも、言えなくて。
「そうか、過呼吸だな。――――お前は感情の許容範囲を超えるとすぐに過呼吸を起こす。」
「違います……っ!」
「過呼吸を治めるために、仕方なかった。あいつに罪悪感なんて、持たなくていい。」
「……だから、違っ……!」
顔を背けて抵抗しても、その指先で簡単に捕われる。
少し強引に顎を掴まれて唇を開かれると、食いつくように唇を塞がれた。
「―――――んぅっ…………ぁ………!」
何度も何度も角度を変えて、味わうように口内をくまなく舌で探られる。
それでなくても血がたりなくて、思考がうまく回らなくて―――――ぼんやりしているのに………私の思考は、完全に唇から吸い取られてしまった。
しばらくしてようやく唇を解放されたけれど、何も考えられない状態で荒い呼吸を繰り返しながらその黒い瞳の奥をぼんやりと見つめて、小さく恨み言を零す。
「――――せっかく――――ずっと耐えて………来たのに―――――……。」
「――――その言葉、そのまま返してやる。あいつを選んだくせに、お前は俺を縛って離さない。――――俺を縛るなら、それに見合う対価を差し出せ。」
少しの怒気と、苛立ちと、やるせなさとが織り交ざるその黒い瞳に射られて身動きが取れない。
「―――できない……、私は、エルヴィン団長のものです………。」