第75章 再燃
「………それって、何か間違っていますか……?」
「あ……?」
「リンファを襲った人は――――ビクターさんの仲間だったんでしょう?」
「――――そうだ。」
「殺そうと、していたでしょう?ビクターさんが……そう言っていました。そう、命じていたはずです。」
「…………。」
「リンファの命を守れて、私はこんな怪我で済んで――――、良かったじゃないですか。リヴァイ兵士長の判断は、間違っていなかったんだと、思います。本当に、ありがとうございます……。」
「――――馬鹿言うな。とんでもねぇ怪我だろうが。」
「怪我はしましたけど……生きてますし、貞操を奪われなくて済みました。」
「――――お前に傷一つつけたくなかった。」
「それは兵士長としてですか?―――リヴァイさんの本音が、また漏れてるんでしょうか?今日は兵服を着ているから、漏れたら駄目ですよ。」
ふふ、と小さく冗談めかして私が笑うと、笑おうとしているけれどとても笑えない――――そんな切なく苦しい目を、向けられた。
「――――部下2人の命を守ってくださった、兵士長としての判断が―――――間違っていたなんて思いません。それに私は兵士です。傷の一つや二つ、なんてこと、ないです。」
「――――兵服はあいにく、お前の血でまみれたからな。」
「あ。本当だ。」
よく見ると、リヴァイ兵士長は兵服でないシャツを着ている。ここで着替えを貸してもらったのだろうか。
「兵士長としてじゃない本音が漏れてても、聞かなかったことにしろ。」
「………それはずるいです……。私は結構記憶力がいいんですよ。」
リヴァイさんと離れて1年以上が経って―――――、シリアスな空気にしたくないがための、ほんの小さな冗談が上手くなった。
ほんの少し話を茶化して、ほんの少し逸らさないと――――すぐにあの日々に立ち返ってしまいそうだから。
それを牽制するための話し方をそれぞれが身につけてきた。
――――でも時折、それすら許さない、無理矢理あの日々に引き戻そうとするような、強引なあなたがいる。