第75章 再燃
目が覚めると、見慣れない天井が見えた。
窓から差し込む日が朱みを帯びていて、夕方まで眠っていたんだと気付く。
視線を横に動かすと、その人が静かな目で私を見ている。
「――――痛むか。」
「………いいえ。」
「――――相変わらず嘘が下手だな。その眉間の皺を取ってから言え。」
腕を組んだまま、リヴァイ兵士長は静かに悪態をつく。
「――――リンファは……?」
「エルヴィンにこの状況を知らせるために兵団に戻らせた。心配ない。リンファを襲った奴も二度と歩けねぇようにしてある。ビクターも。」
「…………!」
「なんだ。」
「殺さないで、いてくれた………。」
「――――お前が言ったんだろう。」
私の声が、届いて良かった。涙が、溢れた。
「――――良かった――――………。」
「―――――おや、目が覚めたのか?」
小さく扉が開いて、優しそうなおじいさんがベッドの方に寄ってきた。
「――――傷がなかなか深い。もう少し安静にしておきなさい。」
「はい……あの、お医者様ですか……?ありがとう、ございます……。」
「小さな町の町医者だ。暇しとったからな、ゆっくりしていくといい。」
おじいさんは柔らかく笑った。傷だけでなく心も優しく癒してくれる、そんな医師だ。
「恩に着る。」
「かまわんよ、じゃあ、また診にくる。」
そう言って後ろ手をひらひらと振って、部屋を出た。気まずい沈黙が流れる。
「リンファを助けてくれて、ありがとうございます。自分の身を守れなくて――――ごめんなさい。」
「………リンファの姿が消えて、動揺して周りをよく見ずに動いた。それがお前の落ち度だ。」
「……はい。ごめんなさい……。」
「………俺は―――――、判断を間違った。及ぼされる危害が、お前よりリンファの方が命に関わると思った。リンファの命を確保してからお前の元に駆けつければ、間に合うと思ったが――――、こんなにも、傷を負わせた。」
リヴァイ兵士長は静かに、うつむいたまま小さく言葉を零した。