第75章 再燃
「前回見逃してやった――――。なのに、このクソはまたナナを傷付けた。――――今回は俺が例え『やりすぎても』、あいつがなんとかしてくれる。そういう、約束だ。」
「――――………。」
一瞬、私の聞き間違いであって欲しいと願った。
リヴァイさんがここで指すあいつは、一人しかいない。
エルヴィン団長が―――――殺してもいいと言った?
リヴァイさんに――――殺させようとした?
私を守るために?
………真実はわからない。
でも、今リヴァイさんを止めないと、私は絶対に後悔する。
私は激痛の走る手足を何とか動かし、リヴァイさんがビクターさんの息の根を止めようと近づくその背中に倒れるようにして抱きついた。
「もう、いいです……!私は、生きてます!だから……殺さなくていい……!」
止血をしてもなおどくどくと流れる血で、リヴァイさんの兵服が染まっていく。
私の手をとって、じっとその血を見つめたリヴァイさんはまた、感情の無い凍てついた目を私に向けた。
「――――お前が決めることじゃない。俺がこいつを赦せるか、赦せないかだ。赦せない。死を以って償わせる。」
リヴァイさんはそこに落ちていた、私の血が付いたナイフを足で蹴りあげて手で掴んだ。うつ伏せになって倒れているビクターさんの腿に向かってそれをぽい、っと投げると、足先をナイフの柄に合わせて、力を込めてその腿に深く埋めた。人の身体に、ナイフが埋まって血が飛ぶ。
「お前が味わった苦痛を万倍にして与えてからな。」
「―――――っ……!」
思わずリンファも顔を背けた。
私も震えが止まらない。
でも、止めなくちゃ。どうやってでも。
私は血の溢れる左手をリヴァイ兵士長の頬に宛てて、目を見て叫んだ。
「兵士長!!!!!!」
「―――――………。」
「感情に駆られないで……!兵士長のすることじゃ、ありません……!私も、リンファも無事で―――――もう、終わったんです。これ以上の暴力は、必要ない―――――……。」
息も切れ切れに伝えたけれど、段々と視界がぼやけて、やがて歪みだした。
まずい、血を流し過ぎたんだ――――――でも……止めなきゃ―――――……やがて意識が強制的に遮断された。