第75章 再燃
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何かあったら信煙弾で知らせる。
だがそれは奥の手だ。
この距離なら、ナナに異変があれば4秒で相手を殺れる。ただし立体機動を駆使して、の話だ。
エルヴィンの予想通りなら、立体機動を一度でも使えば、いくら遠くてもその音で必ず気付かれる。確実に奴が姿を現してからしか、立体機動は使えない。
予定通りリンファがナナから離れて川辺に歩いていく。ナナの姿に注視していると――――――、ナナが何かに感付いたように顔を上げてリンファの名前を叫んだ。
リンファが消えた。
想定外のことが起きてやがる。
―――――線は二通りだ。
俺に気付いていて、リンファを攫って俺を炙り出す、もしくは――――――ナナをどこかにおびき出すすもりか。
もう一つは――――――リンファに恨みを持っている。
だから先に潰しに来た。その後、今度こそゆっくりナナを味わおうって魂胆か。
「――――ちっ………。」
前者の方が厄介ではある。
変態が感情に任せてとる行動じゃねぇ。
前者ならそれは―――――エルヴィンの予想に反して、中央憲兵か、誰かに雇われたプロか………とにかく厄介な相手に違いねぇ。
だがナナを殺す事が目的じゃないはずだ。攫う目的だとしたら、そうすぐに危害は及ばない。
もしエルヴィンの予想通りだとして、リンファが消えたなら―――――ナナと違って、リンファはこの場で殺される可能性が高い。
そう判断して、相手の視界に入らないように距離を保ったまま、リンファの消えた場所近くに移動した。
俺はこの判断を、後悔することになる。