第74章 心憂
「――――いや、なんでもねぇ。」
「気がかりなのは、あの狂気をはらんだ手紙のことだ。」
「ああ………。」
「ナナがオーウェンズに帰ってしまえば、何か起こる。防げない。」
「――――………。」
「再来週、もう一度1日だけナナが王都に戻る。その時に仕掛けようと思うが―――――頼まれてくれるか?」
乗り気ではなさそうだが、俺の話に耳を傾けるほどには、ナナのことをまだ大事に想っているんだろう。
「――――ナナはてめぇの女だろうが。なんでお前が行かねぇんだ。」
「俺じゃない方が都合がいい。俺は事後の処理で役に立つからな。その場にいない方がいい。」
「――――相変わらずてめぇの思考は異常だ。ナナを得てから特に、だ。」
「…………。」
俺のことまで、よく見ている―――――。
そうだ、俺自身もわかっている、ナナを得てからの俺の変化を。いや、もともと持っていたものが暴かれていく、そんな感覚だ。
「――――毒されたか。あの聖女みてぇな悪い女に。」
珍しくリヴァイがザマアミロとでも言いたげにほんの少し口角を上げる。
「は………お前が言うと説得力があるな。経験談か?」
「――――うるせぇよ。」
「――――で、やってくれるか?」
「………そういや、もう酒が無くなるんだったな。」
リヴァイがわざとらしく首を傾げて目線を上げる。とんだ恐喝だな、と笑みが零れる。
「またか、結構いい酒を贈ったんだぞ?飲み過ぎじゃないのか。」
「――――酒じゃなくてもいい。」
「他に何を所望している?」
「――――ナナを貸せよ、一晩。あいつを抱いてると、何よりもよく眠れる。」
「………ナナを誰よりも大事にしているお前らしくない発言だな。彼女は物じゃないだろう。」
「――――………ああ、禁断症状でおかしくなってるのかもな。」
半分冗談で、半分本気なんだろう。
リヴァイは自嘲気味に長く息を吐いて、頭を垂れた。
「――――やってやる。ただ、俺がやり過ぎた場合も責任はお前がとれよ。」
「ああ、そのつもりだ。酒も貢ごう、最高級のやつをな。」
「……………。」
リヴァイは黙って了承した。