第74章 心憂
「おぉ!!おかえり、ナナ!」
「ああ、おかえりなさいナナさん!」
「あっ、ハンジさん!モブリットさん!ただいま戻りました!」
団長室に入ると、ちょうど訪ねて来ていたハンジさんと、モブリットさんが笑顔を向けてくれた。
その向こうに、エルヴィン団長の穏やかな顔が見える。
「―――では、モブリット。ハンジが研究予算を越えて使い込み過ぎそうな予兆があればまたぜひ教えてくれ。頼りにしている。」
「……はい、十分目を光らせます。」
「なんだよ、ひっどいなぁエルヴィン。無駄遣いしてんじゃないのにさ。ねぇナナ?」
「??」
なんのことかよく話は読めなかったが、ハンジさんの暴走をモブリットさんが止めるためにエルヴィン団長に進言しに来ていたんだろうということだけはわかって、私は曖昧に微笑んだ。
モブリットさんとハンジさんが団長室を出て、改めて私はエルヴィン団長に戻ったことを報告する。
「無事戻りました。その節は、本当にありがとうございました。」
「――――私が戻った日の夜に、急逝されたんだってね。」
「はい。」
「辛かっただろう。」
「――――いいえ。幸せでした。」
私の言葉にエルヴィン団長はとても驚いた顔をしていた。
「ちゃんと向き合わないままだったら―――――、看取ることも、父の死に涙することも無かったと思います。だから、父の死を悼める私でいれたことが、幸せです。私は、頑張ったんだな、と。」
思わず手にもっていた紅茶の缶を、またぎゅっと抱きしめると、エルヴィン団長は目を伏せて少し笑った。
「―――そうか。なら、いい。」
「はい。」