第74章 心憂
「お前が一番好きなものを知りたかったのと―――――、お前にやるためだ。十分具体的だろうが。何を迷うことがある。」
押し付けられた缶を動揺しながらも手に取る。
「えっ………だって、もらう理由が……ありません……。誰かと誕生日を間違ったりしてませんか……?いえ、誕生日だったとしても頂くわけにいかな―――――。」
「この帰省で、また随分と身も心も削ったんだろう。」
「―――――………。」
思いもよらない一言に驚いた。
「お前の家の問題が相当根深いことはなんとなく知ってる。」
「………もしかして……。」
「俺も新しい茶葉を試したかったからな。ついでだ。くれてやる。ありがたく飲め。」
一度も目を合わさず、淡々と一方的に話すのは、兵士長の立場を強調しているからなのか。
「――――飲めませんよ………。」
「あ?なんだ、いち兵士だから困るとか下らねぇ理由なら―――――。」
若干の苛立ちを含んで、座ったまま私を見上げる。
「――――勿体なくて…………。」
「―――――………。」
「ありがとう……ございます………。嬉しい―――――最高の、ご褒美です………。」
私はどんな顔をしていただろう。多分とても、泣きそうなくらい情けない顔をしていたんじゃないかと思う。
ぎゅっとその缶を胸に抱くと、ほんの少しだけ、リヴァイ兵士長が笑んだ気がした。