第74章 心憂
道中に視線はやはり感じたけれど、ミケさんがいるからか―――――特に何も起こることもなく、その日の夕方には兵舎に着いた。ミケさんに御礼を言ってから部屋に戻ると、いつも変わらない様子でリンファが出迎えてくれた。
「おかえり、ナナ。」
「ただいま!お土産あるよ!」
「いいのに。大変だったんだろ?」
「うん……でも、行って良かった。父も――――安心して、逝けたと……思う。」
「……そっか。」
リンファに小さな包みに入ったクッキーを手渡すと、いいのに、と言いつつとても目を輝かしていて、とたんに胸がほっこりと温まった。
「サッシュさんと一緒にお茶してくれたら嬉しい。」
「うん、そうする。」
「団長室に報告だけ先に行って来るね!今日は久しぶりに一緒に晩御飯食べたいから、待っててくれる?」
「ああいいよ。」
団長室に向かおうとして、大事な用を思い出した。
そうだ、紅茶も渡さないといけなかった。ついでに兵士長の執務室も訪ねて、渡してしまおう。私は紙袋に入った紅茶を持って、部屋を出た。
少し廊下を歩くと、数日会っていなかっただけなのにたくさんの人たちが声をかけてくれて、自分の居場所がここにもあるんだ、帰ってきたんだと実感する。
だからこそ、また近いうちに発たなければならないことも少し、寂しい。