第74章 心憂
「あっ……これもいいなぁ……!」
「それは少し果実香があるでしょ?」
「うん………ブランデーに合いそう……。これにしようかなぁ……!」
「そうね、ミルクよりも、確かにブランデーを垂らすほうが合うかもしれないわ。美味しいでしょうね。でも…………すごく意外。」
「えっ?」
「ナナちゃん、ブランデーを飲むの?」
「――――………飲まない……。」
ぼんやりと考え込む私を見て、ふっとおばさんは優しく笑った。
「自分の好きなものを知っていて、それをナナちゃんが選んでくれるのももちろん嬉しいと思うけど――――頼んだ人は、ナナちゃん自身が好きなものを知りたいんだと思うわよ。」
「…………私の、好きなもの―――………。」
「お待たせしました、ミケさん。」
「いや、買えたのか?」
「はい。」
「――――なぜ、そんな顔をしている?」
「………無意識って怖いなあって思って。」
自嘲めいてふふっと笑うと、ミケさんも困ったように少し笑って、私の頭を撫でた。
「厄介なお使いを頼まれたものだな。」
「………本当に。」
「渡す時にでも、恨み言を言ってやれ。」
「そうします。」
ミケさんには色々とこの複雑な心境も、バレているから。取り繕うことなく素直でいられることが、心地よい。
それでなくても不機嫌な顔のあの人に、渡す時にちょっとした恨み言を言ってみよう。どんな顔を、するかな。