第73章 夜這 ※
次の日の朝、エルヴィンは予定通り発ち、兵団に戻った。
私たちは再び父の病室を訪れ、今後の経営をどうしていくのか――――より具体的な未来の話をすることになった。
ロイは過去のこともあり、経営の表舞台に出るべきじゃなく、本人も今の研究を突き詰めたい気持ちがある。私は、初めてロイが主張した“やりたいこと”を叶えてあげたい。
母は自らの小さな診療所を持っているし、自ずと―――――どうにかできるのは、私しかいないんだと結論付いた。
「――――でも姉さんは調査兵団でやりたいことがあるんでしょ?」
「それは――――そう、だけど……でも……このままじゃ……。」
「――――ナナ、無理しなくていい。オーウェンズ家がたとえ無くなったとしても、私たちの血が……生きてきた証が全てなくなるわけじゃない。」
父の意外すぎる言葉に驚いた。
そうだ、父はエルヴィンにも言わなかった。きっと、結婚して家を継いでくれと言うと思っていたから。
父自身も、ようやく解放されたのだろうか。自分に課せられた家の重責から。
「――――みんなが了承してくれるのなら、私がやるわ。」
発したのは母だった。
「あなたとロイが築いてきたほどの規模を維持できるかはわからないけれど、最低限、あなたが守りたかったものくらい、私にも守れると思う。ナナとロイの夢を応援するために、一つくらい――――母親らしいことを、できることを、したい。」
「――――クロエ……。」
「――――母さん、とても有り難い申し出だけど……。世間はそんなに甘くない。母さんは世間から見たら、男と駆け落ちしてオーウェンズを追われたことになってる。それが戻って来て、病院を継ぐなんてことになったら―――――。」
「ふふ、稀代の悪女の誕生ってところかしら。」
母はおかしそうに、事もなげに笑った。