第73章 夜這 ※
「面白いじゃない。言いたい人には言わせておけばいい……、私は世間の評判のためじゃなく、病気や怪我に苦しむ人たちのために、オーウェンズ家の力を使うの。――――もし、あなたたちがそれで良いと言うのなら、だけど。」
母の強さを目の当たりにして、私はただ言葉を失った。
美しく、純粋で、儚い人だと思っていた。
母の言葉を聞いた父は、吹き出すように小さく笑った。
「―――――私の家族は本当に頼もしいな……。クロエ、君の負担にならないのか?」
「負担は負担よ。決まってるじゃない、こんな大きな病院の経営、やったことないんだから。」
「―――じゃあ経営面の相談は僕に。今までの経験もあるし、困った時に相談に乗ってくれる頼もしい人も見つけたから。」
「―――じゃあ外交的なところは私にやらせて。調査兵団にいることで多少のツテもできたし、話題性としても十分なはずだから。」
自然と、それぞれが自分に出来る事を持ち寄って、父の大事にしていた家を守ろうと、声を上げた。
父はまた、涙を流した。
「―――――ありがとう、こんな私の今までの生きた証までも……認めて、守ってくれて……ありがとう……。」
まるで心のつかえを全ておろしたことに安堵したように、その夜、家族全員が見守る中で父は逝った。
その表情はとても柔らかで、安らかな顔をしていた。
私たちは抱き合って泣いた。
私は正直父が亡くなっても泣くことなどないだろうと思っていたから―――――自然と涙が零れた自分が、少しだけ良い娘になれたような気がして、ほんの少し、救われたんだ。
こうして、バタバタと葬儀や引継ぎをしている間に――――私が兵団に戻らないといけない日は、あっという間にやって来た。