第73章 夜這 ※
――――――――――――――――――――
眠るエルヴィンの隣で、ふと目が覚めた。
月明りが差し込む窓辺で、その光を受けて艶やかに光るエルヴィンの髪が綺麗で、そっとその髪を梳く。
対象的に窓の外に遠く見える夜空は昏くて、月を配していてもなお昏くて、あの人の瞳を思い出させる。
――――もうエルヴィンと、何度身体を重ねただろう。数えても、いないけど……。
甘く溶かされるように優しくて、気持ちよくて……時折激しさと欲の色を強く発して私をおかしくさせる。
ただ、胸の奥底を――――心臓を鷲掴みにされて、呼吸さえ忘れそうになるあの感覚には、一度も落ちたことがない。あれはきっと――――あの人だけが私に行使できる力なのかもしれないとくだらない事を思っては、もう随分前のことを未だに思い出す自分に呆れる。
もう二度と、あんな胸が苦しい思いはしなくてよくて――――この安心できる、温かな愛に溢れた腕の中で、同じ夢を追って私は生きていける。
――――なんて、身に余る幸せ。
「私は、エルヴィンを愛してる。心から。私はあなたのもの。心も、身体も全て―――――。」
ほら、口に出せばこんなに簡単なのに、なぜあなたの目を見て言えないんだろう。
それはきっとその蒼い目が、私の心の内を全て暴いてしまうから。そしてまた悲しい目をさせてしまうことが、とても怖い。