第73章 夜這 ※
「いやあのな、ナナ……。」
「ん?」
「夜這いをしてきた愛する女性を、キス一つで帰せると思うか?」
「よばい……?ってなに……?」
ナナがきょとんとした顔で俺を見上げる。
そうか、そういった色事に関する情報源を君は持たないからな。教えがいがある、とまたこの胸が高揚する。
「夜這いとはだな。」
「うん。」
ナナの耳元に口を寄せて、囁く。
「――――性交することを目的に、夜に異性の寝所へ忍び込むことを言う。」
「!!!」
「――――目的を達成しないまま帰すのは男が廃る。」
弱いのを知っているその耳に舌を這わせると、ひゃ、と小さく甘い声を漏らして身を捩る。
「知らなくて……っ……、目的になんか、してないから……あの、遠慮しておきます……!」
「遠慮しなくていい。もう俺はその気だ。」
「―――ここ、私の家……!」
「ああそうだが?何か問題が?」
ナナは顔を赤くして異議を申し立ててくる。
「お母様もロイも、ハルもいるから……っ!」
「そうだな。もし誰かにバレたら―――――俺は非常に気まずいし、軽蔑されるのは辛い。」
「ね、だから――――。」
落ち着いて、とばかりに俺をなだめようとあやすように頭を撫でてくる。
その細い手首を掴んで力を込めて押さえつけ、抗えないことを解らせる。
ナナはよく俺の色気が漏れてると言うが、本気で使うとどうなるか見せてやろうじゃないか。
「――――バレるかもしれないスリルがたまらなく興奮するな。」