第72章 再生
「ははっ、まぁ彼も俺もいい大人だからな、掴み合いの喧嘩にはなってないな、今のところね。全ては彼女の意志次第だから、俺たちはそれに従うしかない。惚れた身は辛いね。」
「――――姉さんはそんなに、魅力的ですか。」
「さぁ、どうだろう。一般的に見てどうかはわからないが、少なくとも俺にとっては――――この世界で一番魅力的な女性だよ。」
「――――姉さんが選んだ人が、あなたで良かった。」
そう話すロイ君の表情は、奪還作戦前に会食で初めて会った時の彼とはまるで別人のようだ。冷たい美しさではなく、温かみのある柔らかな表情をしていた。
「君にそう言ってもらえるなんて光栄だ。」
「――――父さんが言わなかったから僕が言います。」
ロイ君は、カップをテーブルに置いて俺の目を真っすぐに見た。
「姉さんと結婚して、調査兵団を辞めて――――僕と一緒にオーウェンズ家を守って欲しい。あなたとなら、僕たち姉弟はきっとずっと上手くやっていける。」
父に代わって家を守る自負が芽生えたのか。ロイ君の目は、本気だ。大事な物を、守ろうとしている。
「―――ナナが望まないことは、俺はしないよ。ナナは絶対に俺が調査兵団団長を辞することを望まない。」
「………調査兵団がそんなに、大事ですか。」
「ああ。俺も、ナナもね。」
「―――……そうですか……。」
ロイ君はしゅんと肩を落とした。
力になりたいのは、やまやまなんだ。俺だって、最愛の彼女に見た目も中身もそっくりなこの少年を弟のようにかわいいと思っている。
けれど、俺から調査兵団を取り去ったら―――――例え結婚したとしても、ナナの心をこの手に繋ぎ留められないかもしれない。
俺にとってそれは――――不都合でしか、ない。
「………わかりました。でも、僕はあなたを慕ってる。本当に、兄のように。だから――――僕がこれから困ったら、どうしようもなくなったら――――、頼っても、いいですか……。」
「もちろんだ。俺にできることなら、どんなことでも力になる。」
「――――ありがとう。」
ロイ君は嬉しそうに目を伏せて少し笑った。