第72章 再生
「――――ロイがいてくれて良かった。」
「…………取り返せ、ない……ほどの……ことを……っ……しただろ、僕は………っ………!」
「――――お父様もお母様も小さく過ちを犯した。私も。そして――――ロイも。でも、間違わない人なんていないから………だからもう前に進もう?」
「……………。」
「それに―――私たちを愛してくれているのは、お父様とお母様だけじゃない。すぐそこに―――――大切な人がいるでしょ?その人達は、私たちのことも赦して――――、受け入れてくれる。」
扉の向こうにいる、ハルとエルヴィンを想う。
「――――うん、確かに………その、通りだ………。」
ロイの表情が、柔和になる。眉をさげて、ふ、と小さく笑った。
「――――母さん………。」
「………!!」
「――――聞かせて………僕たちを、家族を、愛してた?」
ずっと冷静だった母が、顔を両手で覆って涙を流した。
そして母は13年ぶりにロイに両腕を伸ばして、その胸に抱いた。
「愛してる。今も、ずっと前から、ずっと………!」
「―――――うん、わかった。」
ロイの手が、遠慮がちに母の服を少しだけ、つまんだ。
「―――――大きく、なったね……ロイ………!」
みっともなく涙でぐしゃぐしゃになりながら、私たちはやっと家族の形を思い出した。
ロイはまだ完全に両親を赦したわけじゃないけれど―――――、その心に、身体に触れさせてくれた。
きっとここから温もりを伝えあって、私たちは変わっていける。
「――――ナナ、ありがとう。お前は私の、誇りだ………。」
ベッドの上から震える手で父が私の手を握る。
その手を両手で包み込み、涙を流す父に笑顔を向ける。
きっともう、父は長くない。
あと僅かなその時間を、父が求め続けた愛に溢れる時間に変えられたなら、親孝行したと、少しは良い娘でいられたんだと、胸を張っても―――――いいだろうか。