第72章 再生
「――――ナナの問に答えるなら―――――、私の生きる意味は、人を救うことなの。そのために生まれたと信じてる。だからその術を取り上げて屋敷に閉じ込めたあなたを赦せなかったし、可愛い子供たちを捨ててでも――――生きる意味を全うしたかった。だからあなた達を捨てた。そんな私にとって、奪還作戦に行くことはごく当たり前のことだった。」
なんて強い意志と言葉だろう。
その言葉に、ロイはただ一点を見つめていた。自分の過去の記憶から、母の言葉が真実であるかを探しているようだった。
「――――君はいつもそうだ。清く、正しく、美しく、強い。そんな君は私のことを一度も――――生涯の伴侶として見てくれなかった。まして――――愛してなど……。」
父が苦しそうに胸の内を少しだけ、吐き出した。
「――――愛そうとしたのよ。何度も。大嫌いだった紅茶が―――――あなたの影響で、好きになるくらいに。」
「――――………。」
「あなたは一度も、気付いてはくれなかったけど……。」
「――――……嘘だ……そんな……。」
「……そうね、私はまたここで小さく諦めてしまったのかもしれない。ナナが言ったように―――――あの時諦めずに、あなたと向き合って紅茶を飲む時間を作っていたら―――――、家じゃなく、病院じゃなく、私をちゃんと見てって小さな我儘を言えていたら………違ったのかしら。」
――――あの時、父との会話で生まれた違和感が繋がった。
母は父と話すきっかけを作ろうと、父の好きなものを理解しようと―――――大嫌いだった紅茶を飲み始めた。
家を守る、大きくすることに必死だった父は多忙でそれに気付くこともなく………母は、諦めてしまったんだ。
母が紅茶を好きになった頃には、もうその関係は修復できないほどに壊れてしまって―――――愛する人を失いたくなくて屋敷に閉じ込めた結果、父は母の生きる意味をを奪う形なってしまったんだろう。
「――――っ………。」
父は手で顔を覆って、涙を流した。